放射性物質 ヨウ素-129
ヨウ素-129の半減期
ヨウ素-129の半減期は、1,570万年
ヨウ素-129の崩壊方式
ヨウ素-129からはベータ線を放出して、キセノン-129(129Xe)となる。低エネルギーのガンマ線が放出される。
ヨウ素-129の生成と存在
ヨウ素-129は長寿命の人工放射能。天然では、大気中で宇宙線とキセノンの反応によって生成し、ウラン鉱などに含まれるウラン‐238(238U)の自発核分裂によって生じる。いずれの場合にも、生成量は多くない。人工的には、核分裂による生成が重要である。1メガトン(TNT換算)の核兵器の爆発で、19億ベクレル(1.9×109Bq)が生じる。1回の核実験による生成量は大きくないが、度重なる核実験によって大気中の存在量が倍増したといわれている。電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、500億ベクレル(5.0×1010Bq)が生成する。
ヨウ素-129の化学的、生物学的性質
地球環境で、ふつうはヨウ化物イオン(I-)または単体(I2)として存在する。単体は昇華しやすく、酸性水溶液を加熱すると大気中に揮発する。甲状腺ホルモンに含まれる必須元素で、体内に取り込まれると、ほとんどすべてが甲状腺(成人で20gの重量)に集まる。成人の体内にあるヨウ素の量は11㎎で、1日に摂取する量は0.20㎎である。この量を摂取するには、小さな塩昆布1枚を食べれば十分である。
ヨウ素-129の生体に対する影響
ヨウ素-129から放出されるベータ線は水中で0.3㎜までしか届かない。ベータ線による甲状腺被曝が大きな問題となる。10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は1.1ミリシーベルトになる。1歳の子供では甲状腺の重量が成人の10分の1なので、被曝線量は成人の約10倍になる。生物学的半減期は、甲状腺で120日、その他の組織で12日とされている。
ヨウ素-129の再処理工場からの放出
六ヶ所村での予定年間処理量は800tである。1年間に排水中に430億ベクレル(4.3×1010Bq)、排気中に110億ベクレル(1.1×1010Bq)を放出するとしているが、実際の放出量がこの範囲に収まるかは不明である。放出されるヨウ素-129は海藻に濃縮されるので、環境汚染は避けるべきである。ヨーロッパでは、広い海域にわたって海水と海藻はヨウ素-129によって汚染され、北海にまで汚染が広がっている。これはイギリスとフランスの再処理工場からの放出だと考えられている。日本でも、東海村再処理工場の運転開始時には敷地外にヨウ素-129が放出され、周辺の環境試料が汚染されたことが、放射線医学総合研究所那珂研究所の研究によって明らかにされている。
ヨウ素-129の放射能測定
ヨウ素-129は半減期が長いために、微量のヨウ素-129の量を決定しなければならない。ベータ線測定によって0.01ベクレル以下を測定することは難しく、他の測定法が必要である。有効な分析法の一つが「放射化分析」である。この方法では、試料中のヨウ素を分離し、ヨウ化パラジウム(PdI2)として原子炉照射し、生成するヨウ素-130(130I、12.6時間)を測定してヨウ素-129の量を求めている。新しい高感度の方法が「加速器質量分析法」である。この場合はヨウ素を分離してヨウ化銀(AgI)に変える必要がある。この測定法の研究開発は、日本原子力開発機構の「むつ研究所」でおこなわれている。
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